top of page

People

建築家・黒崎敏氏がオススメする海外の美術館&ホテル

CA97393E-89F8-41AE-9CCA-D8FB9D319AA6.jpg

​スリランカにあるホテル「ルヌガンガ」のリビングルーム

Peopleの第一回のゲストとして登場していただいた、建築家の黒崎敏氏に聞いてみたいたことがあり、再度インタビューをお願いした。昨年の今頃は、2021年の春以降は海外旅行が自由にできるようになるだろうと思っていたが、GW前に3度目の緊急事態宣言が出るという事態になった。新型コロナウィルスが収束するまでは、イマジネーションの旅を楽しみましょう。

9CC143BF-08A1-41E5-826A-1845A3CB161C.jpg

デンマークの首都コペンハーゲン

Apollon(以下A):前回のインタビューで海外に頻繁に行くと伺いました。35カ国に行かれてるのですね。海外でお気に入りの美術館やホテルなどを教えてください。

黒崎敏氏(以下黒崎氏):仕事やプライベートで様々な国を訪れますが、素晴らしい美術館やホテルは沢山あります。特に北欧が好きで何度も行っていますね。デンマークのコペンハーゲン周辺はガストロノミーの世界では有名なエリアで、世界中のフーディーが注目する街ですが、建築や家具の世界でもデザインの巨匠達が活躍している街でもあります。建築や家具のミュージアムもありますが、私がオススメするのはルイジアナ近代美術館です。邸宅を改築したこの美術館は自然と一体となっていて、美術館と自然の境目がないのが特徴です。美術館といえばシンボリックな建物になりがちですが、そのような印象が全く感じられません。展示室までの回廊はガラス張りで広大な庭の景色を楽しめ、カフェテリアからはオーレスン海峡が眺められるなど周辺の環境を最大限にいかしています。特別な場所というよりもむしろ周辺の人たちの寛ぎの空間となっている開放的な雰囲気がとても良いと感じました。ニューヨークにあるMoMaなども子供たちがアートレクチャーを受けていて、市民が気軽に楽しめるアーバンミュージアムならではの良さはあります。一方、ルイジアナ近代美術館はアートに興味がある人に限らず、大人から子供まで、居心地の良さを求めて美術館で過ごすという人が多く、生活の中にアートや自然を取り入れて楽しんでいると感じましたね。今まで世界中の素晴らしい美術館を見てきましたが、中でも一番のお気に入りです。

BAEC7104-5F69-4224-82B1-3ED0E005327B_edi

ルイジアナ近代美術館内の回廊

8BA976DA-E1A2-4B3D-BE82-F8E2C1EBA9BB_edi

「ジャコメッティ・ルーム」

風景とアートが一体化している

0E496707-7DF9-48C0-B95B-F7A476E7F960.jpg

アレクサンダー・カルダーの作品を展示しているカルダー・テラス

A:アートと建物とランドスケープと人が一体化していて、従来の美術館とは違う空気感があるのですね。

黒崎氏:日本ですとアートを観ることを目的として美術館を訪れる人がほとんどですが、この美術館には、むしろ心地よい環境そのものに惹かれて世界中から人が訪れていると感じました。

デンマークではモダンな家具や照明がパブリックスペースの至る所に設置されており、日常の中で最高峰のデザインに触れる機会が多いため、デザインに対する国民の感度が高いですよね。審美眼のある人々が自然と集まり、しかも心から寛げる美術館というところに見応えあります。

08CE6011-B4E0-4BE7-B7EA-19701AEADADD.jpg

ルイジアナカフェのテラス席は憩いの場

A:ルイジアナ近代美術館は“世界一美しい美術館”と言われていますので一度は行ってみたい美術館です。コペンハーゲンに宿泊してアート観賞後は美食を堪能するという旅も良いですね。

黒崎氏:コペンハーゲンはガストロノミーの宝庫です。中でも世界的に有名なNoma出身のシェフが率いるオーガニックレストラン「レレ」はとても印象的でした。調理シーンを眺めながら食事を堪能できるオープンダイニングスタイルで、厨房と客席が分かれていない“シェフズキッチン”が特徴です。日本では厨房区画という規定があり、消防法上、客席と厨房を区分してデザインするように指導されますが、デンマークにはそういった規定がないため、厨房と客席が一体化され、小劇場のようなフレンドリーな居心地が生まれています。レストランにしても美術館にしても、コンパクトながら渾然一体となっているのがデンマークの特徴なのだと思います。モダンでありながらも気取らず、カジュアルでアットホームな雰囲気も気に入ってます。

A5C48072-675B-480B-BD7A-A7532F0F4E47_edi

コペンハーゲンにある

オーガニックレストラン「レレ」の店内

A:やはり、コペンハーゲンに行ったら、アートと美食の両方を楽しみたいですね。オススメのホテルをお聞きする前に、黒崎さんが建築家になったきっかけを教えてください。

黒崎氏:高校生の頃、椅子のデザインで有名なチャールズ&レイ・イームズのドキュメンタリー番組をテレビで観ました。イームズは、家具や子供用のカードゲーム、戦争で負傷した人のためのギブスなど様々なプロダクトデザインを手がけていますが、「Powers of Ten」という科学短編映画も製作しています。タイトルは「10の累乗数」という意味です。映画は、シカゴ湖畔の公園に寝転がっている男性からカメラが上空に向かってズームバックしはじめ、大気圏、銀河系を超え、視界の限界となる宇宙の果てまで後退します。今度はそこからズームアップして湖畔に戻り、人間の手の甲にある皮膚から細胞の内部に侵入し、ある程度までいくと限界になり砂嵐になるという、マクロ(宇宙)からミクロ(素粒子)までの“スケールの旅”を表現した映画です。当時はGoogle earthなどありませんから、大変な衝撃を受けたのを覚えいています。また、様々な仕事を手がけるイームズが自らを「建築家」と語っていたのを観て、ものを見方次第で幅広くモノづくりができる魅力に気が付いたのが建築家を志すきっかけになりました。現在、住宅やホテルなどの建築を中心に、都市開発やランドスケープから家具やインテリア、プロダクトの企画開発まで、様々なスケールのデザインを手がけているのは「私は建築家です」というイームズの言葉に影響を受けたからにほかなりません。

私の実家は金沢に約420年ほど続くお寺で、古い建物を修復するために様々な建築職人が出入りしていました。中でも左官の仕事に興味を持ちまして、子供の頃は左官の仕事に憧れていました。土や砂や水を混ぜ合わせて硬さを調整し、鏝を使って壁に塗るという一見単純な仕事なのですが、腕一本でこんな綺麗なものが作れるのだと感動したものです。職人さんの美しい仕事に感動し、憧れていましたが、イームズの短編映画を見てからは、職人よりもむしろ建築家になることで様々な仕事を横断しながら職人と関わることができるのではないかという考え方に変わりました。

A:建築家は様々な専門家や職人とチームを組んで一つのものをつくりあげる。オーケストラの指揮者のような存在なのですね。

黒崎氏:そうですね、常に全体を俯瞰し、バランスをとりながら、同時に細部にもこだわる仕事です。旅をする際はその場所にある魅力的なホテルに必ず泊まるようにしていますが、毎回仕事の延長としてチェックしてしまいます。建築家はモノではなく、空間そのものをつくっていますから、その空気感がなぜ生まれているかが建築、インテリア、家具、素材、ディテール、寸法、に至るまで全てが気になります。ですからホテルではそれほど寛げませんね。

 

AF06673F-C6C1-4364-83C5-6D76A76F84BC.jpg

スリランカのホテル「ルヌガンガ」のヴィラの一つガーデンハウス

A:私も旅先ではホテルを取材することがほとんどなので、寛げないのはわかります。建築家とジャーナリストだと寛げない理由は違いますね。オススメのホテルの話を伺います。建築家がデザインしたホテルに泊まることが多いと伺いましたが、最近はどちらに行かれましたか?

黒崎氏:建築家がデザインを手がけたホテルは世界中にありますのでよく行きますが、数年前に訪れたスリランカの建築家ジェフリー・バワがデザインしたホテル「ヘリタンスカンダラマ」は印象的でした。

「ヘリタンスカンダラマ」は、インフィニティプールを世界で初めてつくったことでも有名で、このプールはアマンリゾーツの創設者にもインスピレーションを与えました。ヘリタンスカンダラマのインフィニティプールは、クラシカルなつくりではありますが、プールとカンダラマ湖が一体となるように設計されています。プールには樹木が覆いかぶさり、ジェフリー・バワが自然あふれるロケーションの中で何を見せたかったかがよくわかるホテルです。スリランカではジェフリー・バワの最後の傑作と言われているホテル「ルヌガンガ」にも宿泊しました。こちらはカントリーハウス型の庭園ホテルで、湖畔沿いの広大な敷地に6つのヴィラが点在しています。自然環境とヴィラが一体化している環境はまさにバワが目指した真の住宅の姿であり、スリランカという大地を五感で体感することができます。大小の客室はそれぞれ個性があり、メイン棟のダイニングからはシンボリックな樹木や湖が望めます。派手な演出は一切ないのですが、自然の中で思い切り自分自身を開放することができました。帰国してからホテルの良さをじわっと感じるというか、記憶に残るホテルです。佇まいがよかったり、虫の音色が聞こえてきたり、朝起きた時に爽やかな風を感じたり、断片的な幸福感が連なった時に、豊潤な体験だったなと感じましたね。スリランカで、ジェフリー・バワの建てたほぼ全てのホテルや邸宅を訪れましたが、ストーリーを感じながら滞在することで、彼の建築家としての考え方がわかりました。バワが考案したインフィニティプールは、自然を映す鏡として、環境を建築に取り込む手法でもあるのだと思います。ホテルに滞在しているというよりも家にいるような、家とホテルの境界を曖昧にしているところなどもバワの建築理念だったのでしょう。アマンのような王道のリゾートホテルとは異なる、庭園と一体となった邸宅のようなバワのホテルはとても興味深いですね。

リゾートホテルは仕事で行くことも多いのですが、スリランカにあるジェフリー・バワの建てたホテルの中でも「ヘリタンスカンダラマ」、「ルヌガンガ」はオススメです。

A:ありがとうございました。

1D35AFBA-EC45-43EC-BE49-8F2E57FC86FF.jpg

ヘリタンスカンダラマのインフィニティプール

AF6B6422-6217-4909-BAEB-FF7259B34569.jpg

ヘリタンスカンダラマ

01.jpg

APOLLO Architects & Associates 

代表取締役 / 建築家 黒崎 敏

大手メーカーの商品開発、設計事務所主任技師のキャリアを経て2000 年に自身が主催するAPOLLO を設立。

邸宅、ヴィラ、リゾートホテル、商業施設の設計の他、企業の商品開発やブランドデザインに関わる。

世界的デザイン賞であるイギリスのWallpaper Design Award で「Best New Private House」を受賞するほか、イタリアのArchiproducts Design Awards では6年連続日本人審査員を務めるなど、海外でも高い評価を得ている。

https://kurosakisatoshi.com/

bottom of page