三島由紀夫が足繁く通った

熱海の喫茶店「ボンネット」

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​創業から71年目。熱海の老舗喫茶店「ボンネット」

1952年に創業した昭和モダンな喫茶店「ボンネット」は、谷崎潤一郎、三島由紀夫、越路吹雪、高倉健など数多くの著名人に愛されてきた。

1952年というと、三島由紀夫が1951年12月から約4ヶ月半世界一周の旅から帰国した年で、日本が主権を回復した年でもある。そんな時代の変わり目にボンネットのオーナー増田博氏(以下マスター)は熱海に移住してお店をオープンした。熱海を選んだのは親戚がいたからだという。

 

お店には数多くの映画スターなども訪れたが、マスターが一番印象に残っているのは三島由紀夫だ。マスターと三島由紀夫との出会いは、熱海ホテルのプールサイドだった。熱海ホテルは熱海駅から湯河原方面に少し行ったところにあった伝説の洋風ホテルだ。三島由紀夫はこのホテルに7月、8月と長期滞在して執筆していたという。マスターはこのホテル付近のマンションに住んでいたことがあり、夏になるとホテルのプールサイドに通っていた。三島由紀夫の初主演映画『からっ風野郎』を観ていたので、本人に直接感想を伝えたことがきっかけで仲良くなった。

マスターは日本大学の水泳部出身なので、プールで三島由紀夫の泳ぐフォームを見て、アドバイスするようになったのだそう。マスターと三島由紀夫は年齢も近く、映画やジャズの話題で意気投合して、プールサイドでは話が盛り上がった。

ある日、三島由紀夫が一人でふらっとボンネットに顔を出した。ボンネットには当時の日本では珍しいハンバーガーを創業当時から提供している。銀座のアメリカ軍将校クラブでアルバイトしていた時にハンバーガーを知ったマスターは、アメリカンスタイルのハンバーガーは香辛料がきついと感じたので、さっぱりとした和風味のハンバーガーを考案した。この甘辛味のハンバーガーを三島由紀夫は気に入ってよく食べにきていたという。寡黙な三島由紀夫に話好きなマスターはよく話しかけてお店でも映画の話などで盛り上がったのだった。

このハンバーガーがお店の名物となり、今もなお多くの著名人がハンバーガーとコーヒーを目当てに訪れるのである。

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ハンバーガーとコーヒーのセット800円税込

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ボンネットのオーナー増田博氏

名物のハンバーガーとコーヒーのセットをオーダーした。サイフォンで淹れたまろやかなコーヒーを飲みながら、ハンバーガーを待つ。店内にパテを焼く音が広がる。ハンバーガーは、オニオンとレタスが別添えでテーブルに運ばれた。マスターが「お好みでオニオンとレタスを挟んで食べてね」と付け加えてくれる。なぜ別添えなのかというと、野菜が苦手な人のためなのだそう。私はどちらも挟んでいただいた。

今話題のハンバーガー屋のバーガーは女性では簡単にかぶりつけないくらいのボリュームがある。ボリューム勝負のお店が多い中、こちらのバーガーは創業当初から小ぶりで女性でも上品に食べることができるサイズだ。バンズは特注で、パテはシンプルながらもマスター秘伝のタレがたっぷりかかっている。他ではなかなか味わえないハンバーガーだと思う。ハンバーガーとコーヒーとの相性も抜群だ。

 

店内の雰囲気やハンバーガーが、おしゃれで最先端なものが好きだった三島由紀夫の感性に響いたのだろう。お店に通っていた最大の楽しみは、マスターとの会話だったのかもしれない。

三島由紀夫が通っていた時代にタイムトラベルできそうな、そんな気分になる喫茶店だ。

 

ボンネット

静岡県熱海市 銀座町8-14

0557-81-4960

10時~15時

日曜日、第一月曜日定休日。

​*上記以外の月曜日不定休

text by 川合由希子